がん医療においては、診断法が進歩してがんが早期に発見できるようになり、さらに治療成績も向上してきて、社会とのつながりを持ちながら治療・療養生活を送っているがん患者さんが増えてきています。
また、かつては病気を治すことが優先されていましたが、近年は、患者さんの心のつらさに対しても積極的に支援する体制が整いつつあります。
“治療のため仕方ない”、“がまんすべき”と考えられていた、治療に伴うアピアランス(外見)の変化に対しても同様に、支援の重要性が認識されてきています。
アピアランス(外見)ケアとは、この言葉を作った国立がん研究センター中央病院「アピアランス支援センター」によると、「医学的・整容的・心理社会的支援を用いて、外見の変化を補完し、外見の変化に起因するがん患者の苦痛を軽減するケア」と定義されています1)。
つまり、外見が変化したことで大きな苦痛・つらさを感じている患者さんに、いろいろな方法を使って外見の変化を整えて、苦痛・つらさを和らげ、「その人がその人らしく生きること」「社会とつながること」をサポートすることであると説明されています1)。
アピアランスケアは、患者さんの状態のことや生活のことを知っている医療関係者が、患者さんの状態や好み、希望、価値観などに合わせて行うものとされています1)。
アピアランスケアには、まだ確立した方法はありません。しかし、医療関係者に向けた講習会が行われており、また、国立がん研究センター中央病院「アピアランス支援センター」などが関与・作成した手引書やガイドブックが発行されています。
医療関係者向けの手引書・ガイドブックは、患者さんご自身が行うケアのためのものではありませんが、日常におけるスキンケアの方法、安全なひげそり方法、紫外線への対策などについても解説されています。現在、ウェブサイトで公開されていますので、のぞいてみるのもいいかもしれませんね。
医療関係者ががん患者さんに対して、どのようなアピアランスケアを指導すればよいかの基準として使用されることを想定して作成された手引書です。
アピアランスケアは、美しくするためのものだけではなく、元と同じ外見に戻すことでもありません。
アピアランスケアは、患者さんが「その人らしく生きる」「社会とつながる」ためのケアです1)。このことについて、「アピアランス支援センター」では、次のような考え方に基づいていると説明しています。
男性患者さんでは、外見の変化が日常生活や仕事にどの程度影響しているのでしょうか。
2015年に国立がん研究センター中央病院を受診していた男性患者さん823人(平均年齢65.3歳)を対象にアンケート調査した結果2)、84.9%の方が外見の変化を経験しており、外見の変化によって592人中120人(20.3%)の方が「外出する機会が減った」と回答、104人(17.6%)の方が「人と会うのがとても疲れる」と回答しています。
また、「仕事において外見が重要か」との問いには64.5%の方が「そう思う」と回答しており、74.1%の方が「職場では治療前と同じ外見でいることが重要」と回答していることがわかりました。
外見の変化は、決して女性患者さんだけの問題ではなく、男性患者さんにとってもつらさの原因になっているのかもしれません。
アピアランスケアは、女性患者さんだけを対象とするものではなく、男性患者さんや小児患者さんも対象とされています。外見の変化で「これまでの自分と違う」「周りの人からどう思われるか気になる」などの苦痛を感じているのなら、相談してみるのもいいのではないでしょうか。
男性患者さんに向けた、治療中の外見変化への対処に役立つガイドブック
女性の患者さんが読んでも参考になるようです。
外見の変化について悩むとき、まずは医療関係者に相談してみましょう。がん診療連携拠点病院等に設置されている「がん相談支援センター」ではアピアランスケアについても相談に応じています。
「アピアランスケア」という言葉を作った「アピアランス支援センター」のウェブサイトには、アピアランスケアに関するさまざまな情報や資料が提供されています。
横浜市内でアピアランスケアに取り組む医療関係者と国立がん研究センター中央病院が協力して作成した「アピアランスケアに関するリーフレット」には、特に患者さんが悩むことの多い髪、爪、肌、まゆげ・まつげのケア方法について、医療関係者の立場からのアドバイスが掲載されています。
一般社団法人「アピアランス・サポート東京」には、がん治療による外見変化へのケアなどのアドバイスが掲載されています。
監修:公益財団法⼈がん研究会有明病院 腫瘍精神科 部長
清水 研 先生
(公開:2021年3月)