1. 病気との向き合い方、納得した治療・人生の送り方へのアドバイス―ドクターインタビュー

Doctor Interview

公益財団法人がん研究会有明病院 腫瘍精神科 部長清水 研 先生

病気との向き合い方、納得した治療・人生の送り方へのアドバイス―ドクターインタビュー

納得した治療・人生の送り方―医師からのアドバイス

患者さんが納得して治療を受けるためには、患者さんと医療関係者との⼗分な意思の共有に加え、良好なコミュニケーションがとても⼤切です。そこで、がんという病気にも精通している「こころの専⾨家」、公益財団法⼈がん研究会有明病院 腫瘍精神科 清水 研 先⽣に、医師とのコミュニケーション、納得した治療選択を⾏うためのヒント、患者さんへのアドバイスなどについてうかがいました。

公益財団法人がん研究会有明病院 腫瘍精神科 部長清水 研 先生

自分らしい治療を選択するためのヒント

患者さんは医師にどのように伝えると意思決定がスムーズになるでしょうか。

【清水先生】
以前は、医師に「すべてお任せします」という患者さんが多かったと思います。そのほうが「この先生に任せておけば自分を守ってくれる」と考えることができ、楽なこともあると思います。しかし一方で、犠牲にすることもあります。つまり、医師は、患者さんにとって最適な治療法を提案しますが、どのような治療がその患者さんの好み、希望、価値観などに合っているかということは、その患者さんにしかわからないことです。例えば、がんの治療にはさまざまな選択肢があります。抗がん剤投与を徹底的にされる方もいれば、余命は短くなるかもしれないけどつらい治療はやりたくないという方もいらっしゃいます。このようなご自分の好み、希望、価値観などを医師に伝えないと、患者さんにとって納得した“最良”の治療を受けられない可能性があります。

ご自分がどうしたいかを伝えるためには、自分にはどのような治療選択肢があるのか、そのメリット・デメリットを知っておく必要がありますし、これからの人生をどのように生きたいかなどについてきちんと考えておく必要があります。いろいろ調べたり、考えたりすることは大変な作業かもしれません。しかし、このように準備してご自分の意思を伝えることが、がんと向き合いながら納得した治療・人生を送ることにつながるのではないかと考えています。

医師の前でご自分の意見をなかなか言い出せないときはどうしたらよいでしょうか。

【清水先生】
そのような場合には、ご家族や信頼できる友人などに一緒に行ってもらって、ご自分の気持ちを代わりに伝えてもらうことができるでしょう。また、看護師などの他の医療関係者に伝えてもよいでしょう。医師以外に、サポートしてくれる人を見つけておくことも一つの良い方法かも知れません。

医師と患者さんのコミュニケーションが良好だとどのようなメリットがありますか?
コミュニケーションが良好でない場合にはどのようなデメリットがありますか?

【清水先生】
医師と患者さんのコミュニケーションが良好な場合、患者さんの医療に対する満足度が高い、患者さんが精神的に安定する、といったメリットが考えられます。ご自分の意思を伝えることができ、医師が患者さんの気持ちをわかってくれていると思えたら、医師に対する信頼感が高まり、結果として、患者さんが納得して治療を受けることができるでしょう。
例えば、患者さんが治療はもうつらいと思っているのにがまんして、次をがんばろうとして苦しくなってしまうことはよくない状況です。コミュニケーションが良好であれば、ご自分が苦しくなったとき、医師に「つらい」と伝えることができるでしょう。そうすれば、医師は「がんばる道もあるし、治療をやらないという選択肢もあります、あなたが決めていいのですよ」と言うことができます。そして、患者さんの治療に対する安心感や納得感は高まるでしょう。

コミュニケーションが良好でない場合のデメリットは、この逆になります。パターナリズムと呼ばれる考え方を持つ医師の診療でしばしばみられることですが、患者さんは治療をやめたいと思っているのに、医師は「弱音を吐いてはダメだ、がんばれ」などと少し高圧的に言ったとしたら、患者さんは本当の気持ちを⾔えず、「いつまでこのつらい治療を続けるのだろう」と、追い詰められた気持ちになってしまうでしょう。これでは治療に対する納得感は得られないと思います。

患者さんを中心としたコミュニケーションを行うために、先生が心がけていることはありますか。

【清水先生】
患者さんの病気だけでなく、患者さんの人生の物語を知ることが大切だと思っています。患者さんにはどのようなご家族がいて、どのような仕事をしていて、何を大切にされているかといった患者さんの状況、価値観などをきちんと理解しておくことが重要であると考えています。
患者さんもご自分が心配していることを、医師や看護師がわかっていてくれると、安心できるのではないでしょうか。例えば、こどもの将来を心配しながら、治療をがんばっているお母さんがいたとします。それを医師、看護師も「こどものためにがんばっているのですね」と思っていてくれると、患者さんは安心されると思うのです。さらに、医師が患者さんの価値観などを知っていると、「あなたのその価値観からすると、このような治療がよいのではないですか」と提案しやすくなると思います。

理想のシェアードディシジョンメイキング(協働的意思決定)とは?

【清水先生】
シェアードディシジョンメイキング(協働的意思決定)では、次の2つのことが医師と患者さんの間で共有されることが重要だと考えています。まず、医師は、現在の病態とそれに対する治療選択肢を患者さんにきちんとわかりやすく伝えることです。一方、患者さんは、「こういう人生を送りたい」というご自分の好み、希望、価値観などを持っていらっしゃるでしょう。それら2つを医師、患者さん、ご家族が十分に共有した上で、「今の状況では、自分にはこの選択肢が合っている」と最終的に患者さんが納得して決めることが理想なのではないかと思います。このような選択に行き着くためには、医師と患者さん・ご家族でそれぞれの情報をきちんと、温かく、共有することが必要だと思います。

※シェアードディシジョンメイキング(協働的意思決定)とは:患者さんやご家族が医療関係者と話し合い、協働して一緒に意思決定を行う方法のことで、それぞれが持つ情報を共有し、選択肢を選ぶ理由も共有することです。

ご自分らしい治療を選択しようとしている患者さんにメッセージをいただけますか。

【清水先生】
まず、ご自分らしい治療を選択しようとしている姿勢が大変素晴らしいことだと私は思います。そのためには、うれしい情報もうれしくない情報も知っておかなければならないでしょう。また、それらについて医療関係者ときちんと話し合っておかなければなりません。大変なことだと思いますが、そうすることが納得して治療を受けること、さらにはご自分らしい人生を送ることにつながると思います。