治療前
遺伝カウンセリングとは、日本遺伝カウンセリング学会によると、「遺伝に関わる悩みや不安、疑問などを持たれている方々に、まず科学的根拠に基づく正確な医学的情報をわかりやすくお伝えし、理解していただけるようにお手伝い」し、「その上で、十分にお話をうかがいながら、自らの力で医療技術や医学情報を利用して問題を解決して行けるよう、心理面や社会面も含めた支援」を行うこととされています1)。
“うちの家系にはこの病気にかかる人が多いな”と心配になったとき、その病気が遺伝的に本当に心配しなければならないものなのか、遺伝的に心配なものであるのなら、将来その病気にかかる可能性がどの位あるのか、その病気にかからないようにする対策はあるのかなど、遺伝に関わるさまざまな心配事、疑問などを相談できるのが、遺伝カウンセリングです。
がんは、正常な細胞の遺伝子に変異が起こり、その変異が積み重なることによって起こるとされています。その原因の多くは、加齢や、タバコ、食生活といった生活習慣、ウイルス・細菌による感染などの環境要因であり、ほとんどのがんは次の世代へ遺伝することはありません。
しかし、生まれたときから特定の遺伝子に変異があって、がんを発症しやすい(遺伝的な)体質が原因で発生するがんもあります。そのようながんを「遺伝性腫瘍」(遺伝性のがん)と呼んでいます。
私たちヒトの体には2万種類以上の遺伝子があり、その中にはがんの発症を抑制してくれる「がん抑制遺伝子」があります。遺伝性腫瘍のほとんどは、このがん抑制遺伝子に生まれつき変異が起こっていることが原因であるとされています2)。
がん抑制遺伝子も、他の遺伝子と同様に、父親由来のものと母親由来のものを一つずつ受け継いでいます。遺伝的ながんの体質を持っていない方の場合(がん抑制遺伝子が両方とも正常)、片方のがん抑制遺伝子に変異が起こっても、もう片方のがん抑制遺伝子が機能しますのでがん化は起こりにくく、両方のがん抑制遺伝子に変異が起こったときにがん化しやすくなります(がん化まで2段階)2)。一方、遺伝的ながんの体質を持つ方の場合、生まれたときから片方のがん抑制遺伝子に変異が起こっている(機能していない)ため、もう片方のがん抑制遺伝子に変異が起こることでがん化しやすく(がん化まで1段階)、特定のがんになりやすいのです2)。
しかしながら、特定のがんを発症しやすい体質を持っていたとしても、必ずしもそのがんを発症するわけでも、すべてのがんになりやすいわけでもありません。また、対処法がある場合もあります。
遺伝的ながんの体質を持っていない方2)
遺伝的ながんの体質を持つ方2)
原因となる遺伝子によって、がんになりやすい部位(臓器)、がん発症のしやすさ(リスク)は異なります。
遺伝性腫瘍の種類については、国立がん研究センター「がん情報サービス」の「遺伝性腫瘍・家族性腫瘍」をご参照ください。
がんを発症しやすい体質を持つ方は
遺伝性のがんかどうか心配な方は、専門医・専門家に相談してみましょう。
遺伝カウンセリングは、カウンセリングを受ける方(クライエントまたは来談者)に単に情報を提供するだけではなく、その方が十分な情報を得た上で、自律的に望ましい選択が行えるようにするためのものです3)。
遺伝カウンセリングで大切にされていること
クライエントの秘密は厳重に守られます。また、カウンセリングは遺伝カウンセリングを専門とする臨床遺伝専門医や認定遺伝カウンセラーが行います。
遺伝カウンセリングを受けるには
監修:京都大学大学院医学研究科社会健康医学系専攻 医療倫理学・遺伝医療学 教授
小杉 眞司 先生
(公開:2021年3月)