【開催レポート】武田薬品工業 公開オンラインシンポジウム
第3回「これからのがん医療とケア」9月11日(前編)

シリーズ3回目を迎えた「これからのがん医療とケア」シンポジウム。当日は過去最高の視聴者数となり、リアルタイムでの質問も途切れなく寄せられました。「心の健康」が求められているテーマであり、皆さまの参加度の高さが際立つシンポジウムとなりました。事後アンケートの感想欄には100件を越えるコメントをいただき、「不安との向き合い方がわかった」「家族が相談できる場があることを知れた」「オンラインながら臨場感があり、自分事として参加できた」といった感想をいただきました。

「がんと心や暮らしへの影響というのは、切っても切り離せないものだと思います」と座長の高橋都先生。普段さまざまな相談を受けている専門家の講演と、伴走する立場からの経験者の声も含め、全員でディスカッションしながらゆっくりじっくり考えてみましょう、との言葉でシンポジウムはスタートしました。

がんになっても心の道筋はそこにとどまらず、必ず先がある

清水研先生からは、『病気と向き合う患者さんとご家族のこころのケア』のテーマで講演をいただきました。ポイントは、1.がん体験後のこころの道筋、2.家族の心、3.寄り添うということ。がん体験は患者さんにとって非常に大きな衝撃がある一方で、「心の道筋はそこにとどまっているわけではなくその先がある」と話されました。人生に対する感謝、周囲に支えられていることに気づく、人の痛みや苦しみがわかるなど、がんになったことで気づく価値観があることが、患者さんへのインタビューでわかったことを紹介されました。また、悲しみや怒りの感情が巡っている時には、誰かに話ができて泣けることが大切で、精神腫瘍科での心のケアは、少し特殊な形だがその一つ。清水先生自身も、目の前で誰かが泣いた時にうろたえるのではなく、「泣けてよかったな」と思えるようになったと語られました。

ご家族は、病気の経過が良くならないと、自分は何もできないという無力感や罪悪感を持たれるケースがある。ご家族は患者さんご本人と同等か、それ以上の苦痛を有するという調査結果もあると紹介されました。ご家族が自分も苦しんでいるんだ、悲しいんだとオープンにすることには難しさがある。
ご家族が気持ちを整理できるよう作成したA compass for life with cancer(発行:武田薬品工業、監修:清水研先生)の活用についても紹介いただきました。
最後に、寄り添うとは?という難しいテーマについて。「がん体験をしているわけでもないのに、私の気持ちがわかるんですか?」と言われることが先生自身もよくあり、最近は「わかっていないかもしれませんが、わかりたいです」と答えることが多いと明かしました。他人だからズレはあるからこそ、そこに近づきたい、理解したいという姿勢が大切であることを示唆されました。
各所に患者さんやご家族の具体事例をまじえたご講演で、やさしい口調から心の動きや情景が鮮明にイメージされました。ご自分やご家族の体験と重ね合わせ、涙ながら視聴された方もいらしたそうです。

患者さん、ご家族の本音に近づくことはできるのか

品田雄市様には、『がん相談支援センターと心のケア』のタイトルで講演いただきました。
まず、がん患者さんと家族の心のケアは、診断前から治療のすべての時期いつでも必要であること。病気を前にして為す術が無く立ちすくむだけでなく、「自身でできることがある、自身をコントロールできる」という感覚をもう一度見出していただくことが、心のケアの到達点ではないか、と考えを示されました。
その上で、がん相談支援センターの成り立ち、がん相談支援センターがめざすもの、がん専門相談員の役割、がん相談10の原則などについてお話しいただきました。
がん専門相談員の業務のなかで、「相談者の情緒的なサポートを行う」こと、つまり「心のケア」はベースにあり、それをもとに「相談者の情報の整理を助ける」「担当医との関係を改善・強化する」など具体的な支援を行っていることを紹介されました。直接的な心のケアではないかもしれないサポートも、それによって患者さんやご家族が「心がほっとした、相談に来てよかった」と感じていただけることにつながっていると思う、とお話しされました。

また相談員として、相談者の本音に近づくことができるのか、との想いを常に持っている。悲しみやその根底にある怒りに応答しなければ、本当の患者さんの心には近づけない。
「意を決してその怒りにも触れながら、一緒にどう癒していくかを考えることがあります」と明かされました。ケアの本質は、一方的なものではなく、相談する側とされる側と、当事者がお互いの中でケアをし合いながらやっていくものなのではないか。「キャンサージャーニーともいえる心の旅を、私たち一人ひとりが手伝いながら、支え合いながら進めていくということも大事なのではないかと思います」と講演を締め括られました。