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第5回オンラインシンポジウム開催レポート

第5回オンラインシンポジウム開催レポートを公開

武田薬品工業は2023年10月22日、「これからのがん医療とケア」オンラインシンポジウムを開催しました。シリーズ5回目のテーマは、「納得した治療を選び、向き合うために」。登壇者による講演と質疑応答のダイジェストをご紹介いたします。

【開催レポート】

武田薬品工業 公開オンラインシンポジウム  第5回「これからのがん医療とケア〜納得した治療を選び、向き合うために〜」 2023年10月22日

本講演では、特定非営利活動法人がんピアネットふくしま 理事長 鈴木牧子(すずきまきこ)様と独立行政法人奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター 総合診療科部長・臨床研修支援室室長 東光久(あずまてるひさ)先生にご登壇いただき、がん患者さん、ご家族、サポートされる皆様が、医療関係者とのよりよいコミュニケーションをはかり、納得した治療を選ぶためのヒントについて、250名を超える参加者へむけて様々な角度からお話しいただきました。

まず、冒頭でシンポジウム申込者に対する事前アンケートの結果をご紹介しました。病気や治療に対する理解状況について、「部分的に理解が難しいと感じている」「全体的に理解が難しいと感じている」という回答が、がん患者さんご本人で約6割、ご家族で約7割を占めました。

また医療関係者とのコミュニケーションに関しては、「治療における不安や悩みなど、部分的には伝えられている」という回答が、がん患者さん・ご家族ともに約6-7割を占めました。治療における不安や悩みなどを伝える相手としては、がん患者さん・ご家族ともに、「主治医」が最も多く、次いで「家族・友人」「看護師」の順となりました。

講演1:がん治療中によくある患者の不安
~自分の治療体験・患者支援の立場から~

特定非営利活動法人がんピアネットふくしま 理事長 鈴木牧子様

心の痛みやもやもやとともにいること、気持ちを話せる場があることを大切に

鈴木様からはご自身の経験と患者支援の立場から「がん治療中によくある患者さんの不安」と題して講演をいただきました。鈴木様は2003年に卵巣癌を発症。見つかった時はⅢ期Cというステージで手術、それから抗がん剤は2年間にも亘りました。「1番辛かったことは、未来が見えない暗闇、負のスパイラルに陥りそうな心、また周りからの興味本位な声掛けであった」そうで、「来月の予定なんか立てられない」「この先どうやって生きていけばいいのだろう」「私がいなくなったら家族はどうなるのか」と、当時の心境を振り返りました。
続けて、「がん患者さんや家族が持つ痛みは、「社会的・経済的痛み」と「精神的な痛み」があること、なかでも「スティグマ(がん患者という烙印)」をがん患者さんや血縁者が背負う場合があること」に触れ、「がん家系といった言葉が使われたり、抗がん剤・遺伝子医療への間違った理解や解釈がされたりしないよう、医療の進歩とともに倫理観も一緒に考えながら進んでいく日本であってほしい」と鈴木様はいいます。

鈴木様のお話では、「身体の不調に敏感になっている治療中に、身体の痛みを医療関係者に伝えた際、「そんな副作用はありませんよ、気にし過ぎじゃないですか?」と言われ、なかなか自分の困っていることを伝えきれないもどかしさを感じた。」という患者さんの体験を耳にする場面があるそうです。また、鈴木様ご自身の経験として「患者本人としては、真っ暗なトンネルの中にいる時に、周りの健康な方たちから色々元気づけようと思って言ってくれる言葉は、全く患者にとっては不要であった。サプリメントを買って持ってきてくれる方もいたが、そういうものも要らない、構わないでほしいというのが本音だった」といいます。「自分の気持ちを話せる場所が欲しい、話せる体験者に会いたいというのが、私たちのサロン(がんピアサロン)に来ていただく皆さんの本音」と鈴木様は語ります。

サロンで実際にあった事例で、仲間とのお話からヒントを得て心療内科に相談された方や、家族の立場の参加者と思いを共有できたことで、少し気持ちが楽になったという方もいらっしゃるそうです。「『ネガティブ・ケイパビリティ』という言葉は、カウンセリングの用語ですが、事実や理由を求めず、不確実や不思議さ、懐疑の中にいる能力のことをいいます。がんの罹患や治療、周りとのコミュニケーションなどにおいて、もやもやする気持ちは置いておき、淡々と日常を過ごし、また忘れる時間を作っていくことによって、徐々にもやもやも減っていくということが大切」と鈴木様は語ります。
鈴木様は、福島県のがんピアサポート構築事業で開設している「がんピアネットふくしま」において、「今後もピアサポートの輪を広げていきたい、より良いサバイバーシップのために、患者さん自身とそのご家族のがんの体験を社会に生かしていきたい」とし、講演を締めくくりました。

講演2:納得した治療を選び、向き合うために高めよう!患者力!! 

奈良県総合医療センター臨床研修医支援室・総合診療科 東 光久先生

患者力とは、自分の人生にリーダーシップを持ちキャンサージャーニーを歩むこと

冒頭では、「患者力」という言葉について、事前アンケート結果をご紹介しました。「聞いたことがあり、自分でも『患者力』という言葉を使って実践している」と答えた方も、がん患者さんで24%、ご家族で11%おられた一方、「聞いたことはあるがあまり意味を知らない」、「聞いたことがない」との回答が7割以上を占めました。東先生には、納得した治療を選び、向き合うために必要な「患者力」について、講演をいただきました。

まず、患者力の定義について、「自分の病気を自分事として受け止め、人生を前向きに生きようとする患者さんの姿勢、すなわち自分の人生にリーダーシップを持つこと」だと東先生は述べます。
患者力が低いと、質問しない・できない、あるいは自分の病気のことを知らない・知ろうとしない、そして結果として医師にお任せになってしまい、医療の質の低下につながる可能性があることを伝えました。

東先生は、患者力に必要な3つのスキルとして、MACを紹介しました。*

  • M=Medical Literacy(情報の入手・理解・吟味・適用)
  • A=Assertiveness(想いを伝える)
  • C=Communication(言葉のキャッチボール)  *上野直人氏より提供、一部改変

そして患者力は、エビデンスとチーム医療につづく、最高の医療を提供するための第三の柱であることを伝えました。

東先生は、患者さんの意思決定のプロセスについて、従前の「IC(インフォームドコンセント)」が進歩したものが「SDM(シェアードディシジョンメイキング)」であるとし、「SDMでは協力して治療の選択を行うための患者さんと医療者間の対話が重視され、医療者から患者さんへの一方向ではないことに意義がある」と話しました。

「医療者は、どうしても患者さんの行動を変えたくなるが、人が本当に行動を変えるのは心が動いた時。医療者が患者さんに示す共感的な態度を通じて、患者さんの心が動き、行動が変わり、それがエンパワーメント(患者自らが、自分の健康に関係する意思決定力や行動力を身につける過程)につながるだろう。行動が変わった患者さんの姿を通じて、医療者も元気になれる。お互いにお互いが影響し合うこと、そこには共感と信頼の関係性が必要だ」と東先生は語ります。

東先生はさらに、患者さんが「人生のリーダーシップを持つ」ことについて掘り下げます。「治療は病気への向き合い方の一部で、病気は人生の一部である。治療のために生きているわけではなく、自分らしく生きるために利用するのが治療である。まずあるべきは、何を大事にしたいのか、どのように過ごしていきたいのか、という『治療目標』で、その治療目標は『人生の目標』の中にある。治療方針を決めるのは、患者さん自身の生き方であり、これまでどう生きてきたか、何を大事にしてきたのかということを振り返る作業(ライフレビュー)が必ず必要になってくる」と東先生は話しました。

また、東先生は講演内で、患者力に関する医療者側の取り組みとして「PEP(Patient Enpowerment Program・がん医療者がリードする患者力向上プログラム)(※外部サイトに移動します)」を紹介。PEPは、がん患者さんの患者力養成を目指し医療者を教育するためのプログラムで、ワークショップの開催や書籍の出版など、現在の活動は多方面に広がっているそうです。
「言えることによって心が癒えるといいます。そのためにも今日参加された皆さんそれぞれに、準備、振り返りをしていただきたいです。医療者の共感的態度が患者さんの行動変容につながることを十分に意識して、私たちはこれからも診療、そして医療者の啓発につなげていきたいと思います。」とメッセージを送りました。

質疑応答ダイジェスト

シンポジウム後半は、がん情報サイト「オンコロ」メディカル・プランニング・マネージャーの川上祥子(かわかみさちこ)様のファシリテーションで、登壇者による質疑応答を実施。当事者としての体験や患者力を普及しておられる医師の立場から、事前質問と当日視聴者からお寄せいただいた質問に回答しました。

患者力は高い方がいいのでしょうか?
患者力が低いと、治療効果が落ちたりするのでしょうか。

東先生

患者力は高い方が望ましいと思っています。ただ、その人の中で揺れ動くものですので、低いからだめというわけではなく、自分1人で抱え込まずに、周りの人に頼り、相談相手とし、自分の心をケアしてあげてほしいと思います。そうしていくうちに、気持ちが前向きになって、人生のリーダーシップを取り戻そう、もう一度頑張ってみようという気持ちが芽生えてくるのではないかと思っています。

鈴木様

最初来られた時は不安で、主治医ともなかなかうまくいっていなかった方が、だんだん治療を決定する中で、自分に自信をつけていったり、主治医にもきちんと自分の考えを伝えることができるようになっていったりする方の姿を何人も見ています。東先生が、患者さんたちが元気になることで医療者も元気になるとおっしゃいましたが、それは相互関係でとても大事なことだと改めて思いました。
相手が元気になれば私たちも元気をもらうということは、ピアサポートも一方向でただ支援しているのではなく、患者さんからも元気をもらい、先生方もそれを感じていらっしゃると思います。こうして医療者といい関係ができてくると、また患者力も高まり、治療の進行にもプラスになっていくのではないかと思います。

川上様

ピアサポートで、同じ患者さん同士でサポートし合うということは、とても共感できる環境ですよね。東先生のお話にも、共感力が患者力を高めることにつながるというお話がありましたが、ピアサポートの活動を通して患者さんたちの背中を押しておられるのだと改めてわかりました。

症状としての辛さや痛みを患者さんから医師や看護師に的確に伝える方法、あるいは医療者側として、このように言ってもらえばよくわかる、などのアドバイスがあればご教示いただきたいです。

鈴木様

患者側は、おそらくどこが痛いということは伝えるのですが、医療者側から見ると、それは断片に過ぎない。例えば、私は抗がん剤治療が続いていて、もうこの点滴を全部自分で引き抜いてしまいたいくらいイライラしていました。それを看護師さんに話したら「無理しないで安定剤を処方してもらった方がいいかもね」と言ってくれたのです。具体的にどれくらい、どのような痛みかということを、ずばっと伝えた方がいいと思います。

東先生

「痛みが辛いです、ひどくなっています」というようなその表現を、もう少し具体的に、「その痛みのためにこれができなくなって困っています、こんなことができなくなりました」、あるいは、「こうなれたらいいな、こうできたら助かる」と伝えてもらうと、それだけ困っているということが、医療者の心に響くわけですね。そうすると、出すお薬や、対処に影響を及ぼすかもしれないですし、医師自体ができなかったとしても看護師さんやほかの職種の方につないであげようという気持ちになると思います。この患者さんをなんとかしてあげたいなという医療者側の気持ちを駆り立てる、そういうこともあると思います。

川上様

やはり痛みや辛さというのはとても主観的なものですから、痛い、辛い、だるいということをよく治療中に聞きますけれども、そのだるさが、例えば「1日起き上がれないほどだるい」、「家事ができない」など何に影響しているか、何が困るのかというところまで伝えられると伝わりやすいということですね。これは皆さんもとても参考にしていただけるのではないでしょうか。

日々変化する症状が気になり不安になることがあり、その度に主治医に相談や病院を受診してよいのか悩むことがあります。
大したことのない症状なのかもしれないですが、放っておくと不安な気持ちが増してしまいます。主治医も忙しいからと躊躇してしまう時の対処法などはありますか?

鈴木様

がんの治療期間中に風邪をひいたり、花粉症になったりすることもあると思います。そのような時のために、近くでかかりつけの先生にも診てもらえる環境があると少し楽ではないかと思います。
私自身がんになる前からかかりつけの先生がいたので、がんの治療以外はその先生のところに行き、またその先生も私のがんのことをご存じなので、これはがんから来るものではない、アレルギーですね、など判断してくださって、不安が和らいだことがあります。

川上様

がん治療医の先生だけに頼るのではなく、普段からかかりつけの先生にも、うまくがんの情報を共有して、味方になってもらうっていうのは、とても大事なことだと思いました。
こういった患者さんはとても多いと思うのですが、東先生からもアドバイスがあればお願いいたします。

東先生

主治医も忙しいから診察室で聞くのを躊躇してしまうということですが、外来を担当する医師は、1人1人の患者さんに対して今日はこのように進めようという計画を立てています。そこにある種のイレギュラーなご質問や依頼が来た時に、医師によっては面倒くさそうな態度を取ることがあるかもしれないですが、それは予定通りに行かないことに対してのイライラ感なのだろうと思うのです。ですので、今日診察時にこのことを相談したいとか、こういうことで困っているとか、メモ書きでもいいので外来の看護師さんなどにお渡しいただいて、それを診察前に主治医が見るようなチャンスを作ってあげると、医師は作戦を先に変更して、そのことについて相談する時間を取ろうという自分のスケジュールの中に組み込めるのです。そうすると、医師にとっての負担というか、ストレスは少ないかもしれないです。

<上記のほか、討議したご質問>

  • 患者力を評価する方法はありますか
  • 認知機能が低下している患者さんの患者力の高め方について
  • 患者力を高める専門家によるPEP、(東先生からご紹介があったプログラム)はもっと必要です。ピアサポーターはPEPと患者さんをつなぐ力になれますか。
  • 日進月歩のがん治療についての正確な情報を得る手段。またネットで医療情報を集める時の留意事項を教えてほしい

といったご質問を取り上げました。
ご視聴後のアンケートでは、98.5%の方が「今回のシンポジウムで得た情報が有益であった」と回答。また今回のシンポジウムについて、90%の方が「がん患者さんが「患者力」を高めて前向きに治療に取り組むのに役立つと感じた」と回答いただきました。

ご参加後の感想(アンケートより抜粋)

  • 自分らしく生きるための目標を立て、その中で治療の方針を決めていくことで、医療者と患者さんの共感がより得られる可能性があると感じた。
  • 医者に症状を伝える時に、痛いだけでなくて、痛くてこれができなくて困っている、こういうことができると助かるというように具体的に伝えることが有効だと知った。
  • 言えない患者さんがたくさんいることが分かった。医療側も、コミュニケーション方法を学習している、進歩しようとしているのがうれしかった。
  • 患者力はいつも一定じゃないという言葉に救われた。本人も家族も、ときに覚悟が揺らいだり投げやりになったり、現実から目を逸らしたりするのは仕方ないことなのでそういう気持ちも受け入れようと思った。

今回のシンポジウムでも、お申込み時のアンケート、当日質問やご参加後アンケートにて、非常に多くの率直な質問やコメントをお寄せいただきました。ご参加いただいた皆様、本当にありがとうございました。
武田薬品工業では、今後もがん患者さんとご家族の心のケア・がんとの共生や、予防や治療に関する普及啓発の観点で、がん患者さんの気持ちに少しでも寄り添い課題解決につながるご支援ができるよう、アドボカシー活動を継続してまいります。

シンポジウム概要【第5回】

これからのがん医療とケアvol. 5 これからのがん医療とケア〜納得した治療を選び、向き合うために〜

  • 日時:

    2023年10月22日(日)10:30~11:50

  • 対象:

    テーマにご関心のある方ならどなたでも

  • 主催:

    武田薬品工業株式会社

  • 後援:

    厚生労働省、東京都、公益財団法人日本対がん協会、国立研究開発法人国立がん研究センター

プログラム

  • 講演1:

    「がん治療中によくある患者の不安」
    特定非営利活動法人がんピアネットふくしま 理事長 鈴木牧子様

  • 講演2:

    「納得した治療を選び、向き合うために 高めよう!患者力!!」
    奈良県総合医療センター臨床研修医支援室・総合診療科 東 光久先生

[司会] がん情報サイト「オンコロ」
メディカル・プランニング・マネージャー 川上祥子様

  • 質疑応答:

    [回答者] 鈴木牧子様、東光久様、[ファシリテーション] 川上祥子様